月明りの下、かがり火と提灯の明かりが揺らめく中で行われる古歌の斉唱や巫女たちの厳かな舞。この幻想的な神事は毎年10月3日に行われる宗像大社(むなかたたいしゃ)秋季大祭のフィナーレ、「高宮神奈備祭(たかみやかんなびさい)」。
平成29年7月、「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」が世界文化遺産に登録された。登録がきまったのは、福岡県・宗像市の宗像大社沖津宮(1:沖ノ島 2:小屋島 3:御門柱 4:天狗岩)、5:宗像大社興津宮遥拝所、6:宗像大社中津宮、7:宗像大社辺津宮、福津市の8:新原・奴山古墳群の8資産。
古代祭祀遺跡が残る沖ノ島と、宗像三女神を祀る宗像大社信仰、大宮司家宗像氏の史跡・文化財を対象とし、4世紀から現在まで継承されている自然崇拝を元とする固有の信仰や祭祀、古代東アジアとの交流を示す約8万点もの出土品の考古学的価値が高く評価された。
年に一度、3日間にわたっておこなわれる宗像大社秋季大祭
そんな古代から続く宗像大社信仰を目の当たりにできるのが、毎年10月1日から3日まで3日間かけて行われる宗像大社秋季大祭、別名、田島放生会(たじまほうじょうえ)だ。
宗像大社とは、玄界灘、約60kmの広がりを持つ範囲に位置する3つの離れた信仰の場、沖ノ島の沖津宮、大島の中津宮、九州本土の辺津宮から成る神社。それぞれの神社には、天照大神が生んだ三人の女神、宗像三女神が、航路を守る神として祀られている。
祭は、沖ノ島沖津宮に祀られる長女神・田心姫神(たごりひめのかみ)と、大島中津宮に祀られる次女神・湍津姫神(たぎつひめのかみ)を、末女神・市杵島姫神(いちきしまひめのかみ)が辺津宮にお迎えする「みあれ祭」から始まる。大島から神湊沖合までを御分霊を乗せた御座船に宗像七浦の漁船団の数百曹が、色とりどりの大漁旗、幟をはためかさせながら海上神幸する様子はまさに圧巻。沖合を埋め尽くす漁船が、女神たちを見守り、本土まで寄り添うように送り届け、愛おしそうに女神たちの船を回り、それぞれの島に帰っていく。物言わぬ漁師たちの無言の愛情が波しぶきと重なり感動的な儀式である。
神湊で御座船より下りた御分霊は、辺津宮へ。国家の平穏、五穀豊穣、大漁、海上安全を祈願し、翁舞、風俗舞、浦安舞が奉納され、流鏑馬(やぶさめ)などの行事が行われる。
そして、3日目夕方、祭の締めくくりとして行われるのが、「高宮神奈備祭」。御分霊をお送りする神事だ。会場となる「高宮祭場」は、大社の森の奥の奥。約200mの緩い登り坂の参道、119段の階段を登った先にある祭場で、宗像三女神の降臨地とされる宗像大社の中でも最も神聖な場所。途中中断されていたが、630年前まで古代祭場として神事が行われてきた場所でもある。その古式にのっとり、宮司の祝詞、古歌の斉唱、巫女の舞…。その敬虔な祈りは、古代ロマンの世界に誘われ、時を超えた想いが森の中に浸透していく。